2018年7月27日

☆ 訪問記(2)

訪問記第2回を公開します。今回は一部に、極私的なエピソードが含まれていたりいなかったり...(笑)

しもてつ乗換駅の風情(2)

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ゲートを潜り、人通りの多い広場を離れて駅ビル脇から続く路地へと足を踏み入れ、短い坂道を下る。「この奥は子供にはちょっと入りづらい雰囲気だったな...」Kは小さい頃、よくこの道を通ったものだった。「ん?前とちょっと変わった?」以前は坂道の下に小川(というかドブ川)が流れていて、そこを小さな橋で渡ったが、今は橋が無く、上からコンクリートで蓋をされてしまったようだ。そしてそのすぐ脇には忽然と小さなお地蔵さんが立っていた。「かわいいお地蔵さんが...。前からあったかな?」

緩い坂道を下りきると右手には見覚えのある小さなスナック、左手には駅ビル裏の駐車場を挟んで一段高い位置に古風な洋館がある。そこは記憶では昔からただ建っているだけで何にも使われていなかったのだが、今は2階だけ改装して洋食屋として営業しているようだ。美味しそうなハンバーグの写真がプリントされた幟がはためいていてちょっとそそられたKだが、残念ながら今日は休店日の様で玄関には「Closed」の札が掛かっていた。

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ラーメン屋の角で道は丁字路となり、左に曲がればその先は小さな店の並ぶ、さらにうらぶれた狭い小路となる。ホーム裏手の壁に突き当った角を右折すると、その奥手に、支線の踏切際にポツンと佇む小さな一軒の模型店があった。「おぉ、まだやってた」確かに電灯が点いている所を見ると営業中のようだが、店内に客の姿は見えない。そこはKがまだ小学生だった当時、住んでいた隣町からよく自転車で通った模型屋なのである。

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その存在を何となく思い出して来てみただけで、特に何か買物があるわけではなかった。だがKは意を決して入口の扉を引き、中に入ってみた。店内の棚はプラモデルの箱で一杯だったが、ちょっと見、古い物が多く、日光に焼けて印刷の黄ばんでいるパッケージも目立つ。奥からはテレビの音声が流れて来るが、店番はいないのでKはしばらく懐かしい空気を味わいながら店内を観察していた。ショーウィンドウには店主制作のHOゲージ車両やミリタリーのジオラマ、若干埃を被っている制作物は何となく見覚えがある様な気がする。

「すいませーん」そのまま帰るのも気が引けたので、Kは家で切らしている特殊な塗料を思い出し、そう呼びかけてみた。しばらく間をおいて「いらっしゃい」と出て来たのは老齢の女性だ。「××のスプレーなんですけど、置いてますかね?」と尋ねると、彼女はゴソゴソとレジ奥の棚を探した。「これでしょうか?」そう言うと小さなスプレー缶をカウンターに置く。「そうです。これ貰います」最初のうち彼女の顔に見覚えがなかったが、会話をしてみると段々記憶が蘇る。当時この店は中年の夫婦が営んでおり、茶髪でちょっとみ若干ヤンキーぽかったその奥さんの方だ。

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品物を包んでもらい、お金のやりとりをしながら、Kは昔良くここへ通っていた事を打ち明けてみた。「そうなの?お客さん、お名前は?」「Kです。でも当時、告げてなかったかと。あの...、小学生の頃はお城の模型が好きで...」「あぁ!知ってる。いたいた、その子」思いがけず記憶に留めてもらえていたようで、少し嬉しくなった。支線ホームの方から発車案内の放送が流れ、店のすぐ外で踏切の警報機が乾いた音を奏で出す。

「いたわよ、小さいくせに何だか子供らしくない渋~い模型ばかり買って。あ、失礼、それがあなたね」「多分そうです。お城とか、楽器のプラモとか。あと、鉄道模型も少し」「そうそう。えっと、いきなりHOの自作とかしなかった?」「模ラに掲載されてた西部電鉄の特急Read Array号を作ろうとしました。ペーパー自作で」「それでうちのに怒られてたでしょ?あなたみたいなの当時は珍しいから覚えてるわ。最近は何って言ったっけ、鉄...、」彼女の声を遮るように、軽いモーター音を唸らせて店の前を電車がゆっくりと通過して行く。

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Kにとって苦い思い出話が出て来たが、この店の客の間では店主のおじさんは色々と知識豊富で尊敬出来る人物だが気むずかし屋で怖がられ、一方で見た目はちょっとケバいがやさしいおばちゃんは客の味方的な存在だった。「怒られたというか、買いに来た台車が特殊で置いて無かったんです。それで、事前に調べてから作り始めなきゃだめだと言われて...」「半べそだったわね。揃えてないうちの方が悪いのに」笑いながらそう言った。

「それで思い出した!」おばちゃんは手のひらをたたくと、何やら奥の引き出しを探し始める。「あー、あったあった」と言いながら嬉しそうに小さな茶色い紙箱を手にして戻って来た。「これ、持って行けば?もう使わないだろうけど」と渡された箱には「月光モデル/FS-×××」と書いてあった。「あの人がね、後で仕入れて来たの。でもタイミング悪くて、買ってもらう機会が無かったみたいね」

おじさんに説教されたのがトラウマになった訳では無かったが、確かにその後しばらくしてKはこの店に足が向かなくなった。小学生も高学年になって来ると行動範囲が広がる。一人で電車にも乗るようになり、都心のもっと大きな模型店へ出向く様になっていった。その時の台車も、結局他で買った代替の国鉄仕様で済ませてしまったのである。しかもペーパー自作は失敗し、電車はとうとう完成しなかった。

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それともう一つ、その頃からKは周囲のみんながやっているNゲージに傾倒して行ったからという理由もある。店主はそれを「おもちゃだ」と言って良しとせず、店にも置こうとしなかったからである。さすがに後年になって扱うようにはなったらしいが、彼は元来模型について一家言を持っていて、実物を精密にスケールダウンした物以外は認めない傾向があった。思うに9mmゲージ初期に出ていたあの電関の、カーブに至るとガバッとスカートがずれてしまう造作が彼には許せなかったのかも知れない。

「これ、いいんですか?お金は?」「あなたにあげるわよ。置いといても、ここじゃ売れそうにないし」「でもおじさんに聞かないと...」「いないからいいのよ、もう」「えっ?...」一瞬の沈黙の後、ふいに奥の部屋の方から着信音が聞こえ出す。「じゃーね。又来てね」そう言い残して電話をとりに行くおばさん、こうなると一人残されたKは店を後にするしかない。

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外に出て、後ろ髪を引かれるようなモヤモヤした中途半端な心持ちで路地を歩き出す。購入したスプレー缶はリュックにしまったが、もらった台車の箱は手に持ったまま、ちょっと開けて中を覗いてみた。久しぶりに見る鋳物で出来た台車、昨今のNゲージを見慣れた目からするとかなり大きくてゴツゴツしていて重量感がある。「あぁこれ、ピボット軸だな」等と確認しつつ、駅へと向かった。おじさんは不在なのか別れでもしたのか、あるいは既に...、そんな思いを巡らしながら。

コメント(2)

いいですね。
私も昔、模ラに掲載されたHOのペーパモデルの記事で阪急電車を自作していて、台車(FS-xxx)を買いに行き似た思い出があります。小学生の頃ではなくて、大人になってから、古い記事を見てですが。
店の人も、夫婦で出られてきて会話しました。似たエピソードで、びっくりしました。

musashimarumaruさん、こんにちは。
ほぉ、そうですか!
意外とこういう経験、「模型屋さんあるある」なのかも知れないですね。

模ラには「××を作ろう!」とか、ペーパー自作記事が多かったような記憶があります。

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